なぜか彼氏ができない
彼の視線の先にいたのは、小さいとも大きいとも言えないようなバッタ一匹だった。

私は思わず「プッ」と吹き出してしまった。

「あはは」
「何だよ、笑うなよ。キモいだろ、虫とか」
「んー、まあ、キモくないとは言わないよ? でもさ——」
私はヒョイっとバッタをつまむ。そしてポイっとテントの外に出した。
「べつに毒があるわけじゃないし、こんなに小さいんだから怖がることはないでしょ」
「すげー……!」
「羨望のまなざしと見せかけて、ひいてるのよね……どうせ」
その日のごくごく個人的な感情を挟んでつい、不機嫌に言ってしまった。
「いや、本心だけど」
「……」
「小林、かっこいいな」
「それ、褒めてる?」
不機嫌さに照れ臭さが交じる。
「褒めてるって!」

林志朗が真顔とも違う、当たり前のことのような顔で笑いかけるから少しだけびっくりしてしまった。

……それに、虫を怖がるところがちょっとかわいいと思ってしまった。

「え! すご!」

夕飯の時間、今度は私が林志朗に羨望のまなざしを向けていた。
私だけじゃなくて、結芽ちゃんと他の新入社員たち、それから先輩たちも。
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