王子様だけど王子様じゃない

厄日のあくび、あるいはプロローグ


 前後不覚。というか色々と不覚。

 それが今の私を表現するにふさわしい言葉だろう。

 冷静に言い表してはいるが、めちゃくちゃ混乱し一周回って逆に落ち着いているような状態だ。つまり冷静でもなんでもないけど静かにしている、みたいな……やっぱり混乱してるわこれ。

 こういう場合は、とりあえず思い出せるところから思い出すようにしよう。この状況を説明できるかもしれない。

 まず、私の名前は邑田紗都美。二十八歳。ビジネスホテルチェーンのコンクラーウェ本社で働く秘書。よし、大事なことはちゃんと覚えている。

 最近はなぜか営業の久留さんから好意を寄せられるようになって辟易している。接点なんてほぼないのに、どうして営業のエースが私にコナかけてくるのかわからない。私、何かしちゃいました?

 なろう小説の主人公みたいなことを考えて現実逃避をしてみる。だって顔も身体もモデルや女優みたいな美しさはない。丸っこい顔と瞳、髪はセミロングのダークブラウンで珍しくもなんともないし、スタイルだって平均的だ。

 なのに久留さんは食事に誘ってくるし、すぐに二人きりになろうとするのだ。

 そのストレスが溜まりに溜まって、バーで酒を浴びるように飲みまくった。会社の同僚に愚痴っても「何それ自慢?」とか言われるだろうし。……ただ、迫られているのを後輩の君嶋さんに見られてからはたまに愚痴ってるけど。

 最近は忙しくてそれさえできなくなった。その結果がこれだよ!

 隣りで微動だにしない男を横目で見て、少しずつベッドから下りる。
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