王子様だけど王子様じゃない
他の秘書たちからも合格をもらっているし、今日も彼女一人でこなせるはずだ。
懇談会の会場へと先導しながら、今後の予定を簡潔に伝えていく彼女を横目で見る。私より少し高い位置にある横顔を視界に入れたとたんに、副社長とばっちり目が合ってしまった。
内心慌てて、でもさりげなく視線を外して前に戻す。懇談会の会場はもうすぐだ。
「懇談会は立食式のパーティーとなっております」
「新入社員が全員到着したら、すぐに乾杯の挨拶あって……それからは全員が自由に行動していいんだね?」
「はい、ぜひ新入社員に挨拶をお願いします」
「そしたら一緒に挨拶してもらっても構わないかな?」
君嶋さんの歩幅が小さくなった。
「一緒に、ですか?」
「私一人だと、向こうが緊張してしまうだろうからね」
なるほど、潤滑剤になってほしいと。
悪くはない案だが、君嶋さんだって新入社員にとって先輩にあたる。緊張してしまうのはどうしても避けられないんじゃないだろうか。
「謹んでご一緒させていただきます」
君嶋さんは軽く頭を下げて、観音開きのドアに手をかけた。協力するしかないよね。そりゃあ。
私も最初だけ会話に参加して、後は君嶋さんに任せよう。そう決めて、ドアを押さえて副社長を先に通した。