王子様だけど王子様じゃない

 懇談会はつつがなく進んだ。私たちはできるだけ多くの新入社員たちに声をかけたりして、望む部署や研修について聞き役に回る。


「副社長はずっと海外に赴任なさっていたんですよね? 向こうの行政との連携ってかなり密なんでしょうか?」

「私、秘書課を目指しているんですけど……女性だと異動願いが通りやすいとかあるんでしょうか?」

「これからの研修では避難訓練と言いますか……避難の誘導とかに力を入れたりするんでしょうか?」


 最初は遠慮がちだった新入社員たちも、あれこれと質問してくるようになった。そこに他部署の先輩社員たちも加わって、話に大輪の花が咲く。

 この分なら、君嶋さんに任せきりにしてもいいだろう。

 私は君嶋さんに声をかけて、化粧室へと足早に入り込んだ。洗面台で髪をささっと整えて、タブレットで懇談会終了後の大まかな予定をチェックする。

 ……よし、問題はない。

 このまま順風満帆に今日が終わりますように、と願いながら出てきた私を待っていたのは、久留さんだった。
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