王子様だけど王子様じゃない
「俺、無償派になるよう説得してもいいよ」
「えっ」
「営業部が無償派になれば、有償派に勝てる。そうだろ?」
……久留さんの言う通り、営業部が無償派に回れば有償派は少数になる。二の足を踏んでいた会社は、無償派の下で方針を固めていけるだろう。
「その説得のための会議を、邑田さんとしたいんだよね」
「室長ではなく、私と……ですか」
「そう、二人っきりで」
じっとりした視線が全身にまとわりついて、動けなくなる。自分の身と、会社の利益。天秤の皿は上下に動いて止まらない。片方の──会社の利益側の皿に、久留さんが手を乗せて、力を込めるのが見えた。