王子様だけど王子様じゃない


「私も参加させてもらっていいかな?」


 横から、久留さんの手をつかむ手が出てきた。


「副社長!」


 私の声と同時に、久留さんは勢いよく後ろを振り向いた。


「副社長、なぜこちらに!?」

「スケジュールについて確認したいことがあってね」


 副社長は久留さんにも劣らない爽やかな笑みをその口元に浮かべる。動けないでいる私たちをよそに、彼は再び口を開いた。


「久留くん、営業部長が探していたぞ」

「部長が?」

「会場で目ぼしい新人を一緒に探す約束をしていた……と言っていたな」

「これは……お手数をおかけしました!」


 久留くんは慌てて会場へと戻っていった。その後ろ姿を見送ると、副社長は私に向き直る。


「何かされてないかな?」

「いえ全く……本当にありがとうございました」


 私が深々と頭を下げると、副社長は「そんなことはしなくていい」と強めの語気で私の頭を上げさせた。


「あんな人の弱味につけ込むような真似、止めて当然だ」

「副社長……!」

「それに、私は君の恋人だからね」
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