王子様だけど王子様じゃない

制約と契約


 感激していた心はまっさらになって、挙句に出てきたのは「海外式ジョークですか?」だった。


「副社長がおっしゃると洒落になりませんから、控えていただけると助かります」


 言外に「女遊びで会社経営に影響を与えるな」と釘を刺すが、彼は肩をすくめていたずらっ子のような表情になった。


「一昨日のこと、忘れたの?」

「副社長……!」


 私は反射的に周囲を見回した。良かった、誰もいない。


「その件でしたら、いくらでもお詫びいたします」


 私は冷たくなっていく自分の手を握った。頭の中にはいくらでも最悪の未来予想図が展開される。


「そうじゃないよ、約束したのも忘れた?」

「約束、ですか?」


 私が反復すると、形の良い切れ長の目が細められて、「やっぱり覚えてないんだね」と落胆を交えた声が落とされた。


「同僚や元カレがうるさいから彼氏の振りをしてくれ、そしたら水を飲むって聞かなかったんだよ」
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