王子様だけど王子様じゃない

 わぁ無茶ぶり。


「でしたら、その場限りの約束ということではないですか?」

「最初はそうしようかと思ったよ、だいぶ酔っていたし、水を飲ませてタクシー呼んでおこうかなって」


 副社長はそこで言葉を一度切ると、私としっかり目を合わせてきた。男前の顔がドアップになって、その迫力に動けなくなる。


「今日は帰りたくないって、そんなこと言われたらね」


 わぁお。

 海外のような感嘆を漏らしても、状況はちっとも好転しない。そんなことくらいはわかってる。わかってるけど、少しだけ現実逃避をしたかった。


「それで、その……ホテルへ?」

「まぁ、私も男だしね」


 女性にそこまで言わせて、恥はかかせられない。とでもいったところか。それでも。


「そんな……そんな酔っ払いの言うことなんて、真に受けなくても……」

 あくまで、「副社長に迷惑はかけられない」姿勢で撤回を試みる。心の中は大嵐が吹き荒れ、「どーしよーどーしよー会社の偉い人とワンナイトなんかしちゃったよ気まずいどころの騒ぎじゃないよー!」とジタバタと転げ回っていようとも、だ。
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