王子様だけど王子様じゃない

 副社長は無慈悲に首を横に振った。


「さっきの久留くんが例の同僚だろう? 強引に何度も誘われて、他の同僚まで巻き込まれてると聞いたよ」


 いやなんでそんなことまで知ってるの? いや私が酔って話したのかあはは。

 ……神様仏様、今後一切お酒は飲まないと誓いますから、この場を切り抜ける知恵をお授けください。

 再び現実逃避をかました私をよそに、副社長は真剣な眼差しを寄越した。


「うちの社員が困っているのに、助けないわけにはいかない」


 ──ああ……この人、責任感が強い人なんだ。

 バーで酔っ払いを介抱して一夜を共にし、たかだか一社員を救うために恋人役まで引き受けてしまうだなんて。


「副社長」

「うん?」

「何でもします」

「え?」

「どんな汚れ仕事でもします、必ずお役に立ちます」

「ちょっと待って、何を──」

「だから、私と付き合っている振りをしてください」


 副社長は眉間にシワを寄せた。
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