王子様だけど王子様じゃない

「それは……対等な契約にしたい、ということでかまわないか?」

「はい」


 わかってる。一介の秘書でしかない私が、副社長を手助けするなんて……高望みだってことぐらい。

 それでも。


「一方的に施されるなんてごめんです」


 彼の目を見てはっきりと告げる。私にもプライドくらいはあるし、「君には苦労させない」「君は居てくれるだけでいい」なんて甘い言葉に騙されるような初心ではない。


「そうじゃないんだけどな……」


 副社長は後ろ頭を掻きながら眉尻を下げた。けれどすぐに口角を上げて、私に手を差し出してきた。


「それじゃあ、契約成立だ」

「よろしくお願いします」


 私はその手を軽く握って、同じように笑ってみせた。眉尻を上げて、凛々しくて強気な顔つきを意識する……できているかな。


「これからプライベートでは典孝と呼んでほしい」

「では私も紗都美と呼んでください」

「そうだな……じゃあ、紗都美」

「はい」

「会場に戻ろうか」
< 19 / 71 >

この作品をシェア

pagetop