王子様だけど王子様じゃない
秘密の契約を交わした私たちは、盛り上がる懇談会へと並んで戻った。もどかしげな久留さんを横目に、君嶋さんや新入社員と会話を続ける。
そうしているうちに、懇談会は終了して皆それぞれの部や課へ戻っていく。私と君嶋さんは秘書課へと一度帰って、そこで改めて副社長と顔合わせをする──という流れだ。
道すがら、君嶋さんに今日の評価を手短かに伝えた。評価といっても簡単なもので、「緊張しすぎないように、それ以外は完璧」とだけ。それでも君嶋さんはあからさまに安心した顔になった。
「よかった……!」
「後は課長の評価だけど、君嶋さんなら心配ないからね」
私は歩調を少しゆるめ、「自信持って!」と握り拳を作ってみせた。君嶋さんは頷き、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「先輩、仕事終わったら少しいいですか?」
「何か質問? それなら今でも──」
「いえ、プライベートなことなので、終業後に」
君嶋さんはいつになく真剣な顔で立ち止まった。垂れ気味の目尻が心なしか上がっているような気がする。