王子様だけど王子様じゃない

 私の番になって、他の人たちと同じように「邑田です、よろしくお願いします」と一礼し顔を上げる。そこには先ほどの感情豊かな典孝さんではなく、クールで有能な副社長がそこにいた。

 ……とんでもない契約を結んでしまった。その事実が、今さら肩にのしかかってくる。

 それでも後悔はない。

 上等だ。

 前で重ねる手に力を込める。

 ちょうど全員の紹介が終わり、課長はこれから半年の大まかなスケジュールを確認するため、副社長室へと共に向かった。

 各々が自分の仕事に戻るなか、私も自分の仕事をこなそうと会議や来客の予定にざっくりと目を通す。

 有償か無償かを決める会議に、それぞれの派閥に有利な外部協力者の来社。パッと見ただけでも、対立が日毎に深まっているのがわかる。

 ため息を吐きたくなるのを抑え、今度はメールアイコンをクリックする。受信箱の一番上にある名前を見て、顔が歪みそうになるのを抑えきれなかった。

 久留敬助と表示されたメールを嫌々開く。まさか社内用アドレスで個人的な内容を送りつけたりはしないだろうし……。そんな希望的観測で読み進め、液晶画面に額をぶつけたくなった。
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