王子様だけど王子様じゃない
まとめると、「有償派と無償派の溝を埋めるために交流会を企画したい、二人で」とのことだった。ギリギリ仕事だと言い訳ができないでもないのが余計に腹が立つ。
とはいえ、このまま亀裂が決定的になれば会社に悪影響を及ぼすのは時間の問題。どうすれば……。
心の中で堂々巡りをしながら、手だけは仕事を黙々とこなした。会議室や来賓室を予約して、文書を仕分けし出張スケジュールを調整する。ああコピー用紙や文房具も補充しておかないと。
悩もうと悩まなくとも会社は回る。目の前の仕事に集中しているうちに、久留さんからのメールなどすっかり忘れ定時になっていた。
帰り支度を大急ぎで終えて、エントランスホールを小走りで横切ろうとした瞬間。
「あなた、ムラタさん?」
険を含んだ声に、身体ごと振り返る。
華やかな女性が、腕を組み仁王立ちで私を睨め付けていた。
「……そうですが」
彼女は品定めでもするかのように私を眺めると、一歩ほど踏み出した。目鼻立ちのはっきりした、化粧映えする顔が近づく。回れ右して駆け出したくなる気持ちを無視して、目だけはしっかりと合わせた。