王子様だけど王子様じゃない
「須藤礼奈です」
「……邑田、紗都美です」
「自己紹介したいわけじゃないんだけど」
いやしてきたの自分でしょ?
そう突っ込みたいのを我慢して、「何か御用でしょうか?」と一応聞いてみた。
「は? 人の彼氏寝取っておいてなにそれ?」
真っ赤なルージュがひかれた唇から、低い声が漏れる。内容は意味不明だし、修羅場に巻き込まれることしかわからない。
「何の話ですか……?」
「惚けるつもり?」
須藤さんは目をすがめて、「敬助が、好きな人ができたから別れたいって」と反吐でも吐きそうな口調で怒りをぶつけてきた。
「どうせあんたがちょっかい出したんでしょ?」
「違います、むしろ迷惑してるんです」
とんでもない勘違いが彼女の脳内で築かれている。そう気付いた私は、弁明しようとスマートフォンを取り出した。
「こちら、見てもいいですから──」
「その必要はないよ」