王子様だけど王子様じゃない
同僚の動揺
久留さんの彼女だという女性と、ご機嫌な副社長から解放され、私はようやく君嶋さんが待っている居酒屋に着いた。
この居酒屋は個人経営の店で、こじんまりとしていて十人も入れば満席になってしまう。それでもチェーン店とは違った静かな雰囲気や、温かみのあるオレンジの照明や、厳選されたメニューに心惹かれるお客さんも少なくはなかった。
要するに、ひっそりこっそり話したいときはうってつけの店だった。
幸いにもカウンターには君嶋さんしかいなくて、いくつかある四人がけの席には二人しか座っていなかった。
「先輩、お疲れ様です」
「うん、お疲れ様」
私は力無く笑った。ここ最近ハプニングやピンチに見舞われすぎて、君嶋さんの温厚な笑顔に肩がほぐれていくような気がした。
でも、これから君嶋さんから聞く話によってはもっと疲れるはめになるかもしれない。
私は背を伸ばして、君嶋さんの隣りに座った。