王子様だけど王子様じゃない

「先輩、さっそくなんですけど……」


 君嶋さんは視線をさまよわせ、私の目をしっかりと見据えながら口を開いた。


「久留さん、彼女がいるかもしれないんです」

「ああ……さっき会った。須藤さんて人」


 私は右手で拳を作ると、左肩を軽く叩いた。自分でも眉間にシワが寄っているのがわかる。


「須藤さん? ユリガミさんではなく?」

「え?」


 話が思いがけない方向へと展開し、私は君嶋さんの顔をまじまじと見つめた。


「同期の子が見たんですけど……」


 君嶋さんはそう前置きして、一から説明してくれた。簡単にまとめると、久留くんはこんなことを言っていたのだという。

 その同期の子は、久留くんが非常階段付近で誰かと話しているのを目撃した。タメ口で楽しげだったので、プライベートなことだろうとその子が立ち去ろうとしたとき。


「もうすぐ俺もユリガミ敬助かぁ」


 はっきりと、そう聞こえた。
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