王子様だけど王子様じゃない

「その子、婿養子にでもなるのかなって話してたんですけど……須藤さんでは間違いようがないですしね」


 君嶋さんの言う通り、“ユリガミ”と“須藤”では聞き間違いの線は薄い。だとすると。


「三股……?」


 私は君嶋さんが呟くのを聞きながら、カウンターのテーブルに腕を置いて軽く指を組んだ。三味線だか琵琶だかわからないBGMに耳を澄ませ、店主が皿を洗う音に目を閉じた。


「君嶋さん」

「はい」

「私……ユリガミさんのこと知ってる」


 君嶋さんは上半身を私のほうに向けて、「やっぱり三股を」と言いかけるのを制した。


「事態は三股より悪いかもしれない」

「どういうことですか?」

「うん、まずユリガミさんの漢字なんだけどね」


 私は手帳を取り出すと、メモの部分に“湯利上”と書いた。君嶋さんにも見えるようにすると、彼女は首を捻ってうなる。


「どこかで見たような気が……」

「そう。この湯利上さんは──」
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