王子様だけど王子様じゃない
ずっと不思議だった。久留さんと会話したのは、記憶にある限り数えるほどしかない。それだって湯利上様と社長の会議を補佐するときの、事務的なものだけだ。
「うん、まぁ……そんなとこ」
久留さんは私を引き寄せながら、「でも」と続ける。
「重要なのは、今、俺たちが、どう思ってるかじゃない?」
「そうですね、私も“私たちが”今どう思うか気になります」
よそよそしい口調に戻った私に、久留さんは腰を撫でる手を止めた。その隙に、私はドアに向かって声をかける。
「どうぞ、入ってください」