王子様だけど王子様じゃない

 ドアがゆっくりと開かれて──現れたのは、須藤さんだ。


「は?……礼奈……?」


 固まってしまった久留さんから素早く離れ、ホワイトボードの裏に準備していた資料を取り出す。

 その間に須藤さんは、肉食獣のように久留さんとの距離を詰める。わぁおっかない。


「おま、なんで」

「いきなり別れるって言い出すから納得できなかったの」

「好きな人ができたからって、言ったろ」


 思い出したように、私へと縋るような眼差しを向けた。私が蜘蛛の糸のように見えるんだろうな、と資料を握る指に力がこもる。

 けど途中で切れちゃうんだよね。


「いいです。そういうのは」


 私はオフホワイトのテーブルに、用意した資料を並べた。久留さんの顔が真っ青になる。
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