王子様だけど王子様じゃない
湯利上旅館はその地方に根ざす老舗旅館だが、ビジネスホテルチェーンであるうちとの仲は良好だ。
それは互いが努力し、想定する顧客層が被らないようにして、ときには協力して宿泊プランを考えたりしているからだ。
うちのビジホに泊まり、湯利上旅館の温泉や食事を楽しむプランがある。なかなか好評で、利用するお客様が年々増えているのだが、このプランを成功させた立役者になったのが久留さんだった。婚約者だったなら納得だ。
「そこの娘と婚約して、あたしと浮気したってわけ?」
「いや、ちが……捏造だよこれ! こいつが俺を貶めようと……!」
「理由は?」
私に罪を着せようと足掻くも、須藤さんの鋭い詰問に次第に追い詰められていく。絶対零度の視線は、彼を逃がさないように凍り付かせた。
「……あー、もう……なんでこうなるかな」