王子様だけど王子様じゃない

 観念したのか、項垂れて首の辺りをかいて顔を上げる。目元や口元には太々しい笑みが貼り付けられていて、開き直ったのだとわかった。


「そうだよ、俺、希美と婚約して逆玉に乗るんだ」

「じゃあなんであたしと同棲までしたのよ!」


 ……マジか。

 そりゃ別れたいなんて納得できないわな。

 久留さんは鬱陶しそうに目をすがめ、口を尖らせた。


「だってメシとか風呂の準備ダリぃじゃん」

「呆れた……最初から家政婦でも雇いなさいよ!」

「金かかるし、お前だってイイ思いしただろ?」


 彼は鼻で笑って、「気持ちイイって悦んでたよな?」と赤裸々なセクハラをかました。それに須藤さんが絶句するのを図星だと受け取ったのか、嘲笑交じりの吐息が漏らした。


「正直さ、邑田さんと付き合えなくてもよかったんだよね」

「え?」

「好きな人ができて、別れたはいいけど付き合えなかった。で、諦めて別の人と結婚した……そんな感じにしたかったんだよ」
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