王子様だけど王子様じゃない
口角泡を吹きながら、私に飛びかかってきた。悲鳴すら上げられず、とっさに目をつむる。
「……?」
いつまで経っても痛みや衝撃はやってこない。恐る恐る目を開けると。
「副社長……?」
ダークグリーンの後ろ姿に、私は呆けた声をかけた。
「……もう大丈夫だ」
副社長の声に、顔を上げたままずるずるとへたり込んでしまう。全身が心臓になったみたいに、バクバクとうるさい。
駆け寄ってきた須藤さんに肩を貸してもらって、ゆっくりと小会議室から退出する。ちらっと久留さんのほうを見たら、数人の男性社員に囲まれていて姿は見えなかった。
近くにある応接室へと移動して、二人がけのソファへと一緒に腰を下ろした。隣りあったまま、二人して口を閉ざす。重苦しい空気が足にまとわりついて、目を伏せたまま両手を重ねた。
「あの」
隣りから聞こえた声に、肩を震わせる。
「あいつがぶつくさ言ってたの、気にしたら負けだから」