王子様だけど王子様じゃない

 ……聞こえてたんだ。そりゃ私が聞こえたんだから聞こえるよな。

 「ブスのくせに」とか「声かけてやったのに」とか「ちょろいと思ったのに」とか、ぶつくさ言い放題していたのは耳に入ってきた。

 決して大きくはない声だったのに、どうしてわかってしまうんだろう。わかりたくなんてないのに。


「ありがとう」


 私がうつむいたまま礼を伝えると、「別に慰めてるわけじゃないから」とぶっきらぼうな言い草で返ってきた。


「あんなクズのせいで誰かが傷つくのは……どんなやつでもイラつくの」

「優しいんですね……」

「優しいのはあの彼氏」


  顔を上げて須藤さんのほうを向く。整った輪郭の横顔が目に映る。……目が少し充血しているのは、気づかないふりをした。


「すごいスピードだった……待機してるのもあったんだろうけど、それでもあそこまでは普通できないよ」


 聞けば、須藤さんが状況を理解できたときには、青筋を立てて久留さんの手首をつかんでいたのだという。
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