王子様だけど王子様じゃない
私がため息混じりに呟けば、君嶋さんがマカロンを食べる手を止めた。
「私が食べて良かったんですか? 先輩が迷惑料でって貰ったやつですよね?」
彼女は半分ほど食べたレモンのマカロンを見つめている。「食べておいて今さらですけど」と眉尻を下げた彼女に、私は微笑んだ。
「君嶋さんが教えてくれなかったらもっと酷いことになってたんだから、いいの。むしろ半分貰って」
「……それなら遠慮なく」
後輩は満面の笑みを浮かべると、マカロンをご機嫌で食べ進める。
「それにしても、その須藤さんて方によく連絡つきましたね」
「あれは運が良くってね……久留さんと連絡が取れなくなった須藤さんが、また会社に乗り込んできたの」
「そのときに、調べていた婚約について話したんですね」
「そう、それで久留さんに自白してもらおうって副社長にも協力してもらったの」
ふむふむ、と頷いていた君嶋さんは二個目のマカロンに手を伸ばした。それと同時に私のスマートフォンが鳴る。
相手を確認した私は、彼女に「後は全部食べちゃって!」と言い残し、社食から足早に立ち去った。