王子様だけど王子様じゃない
変身と返信
私は足早に副社長室の前までやってくると、呼吸を整えて重厚な扉をノックした。
「どうぞ」
未だにうるさく鳴り続ける心臓を無視して、ゆっくりと、控えめにドアを開けて身体滑り込ませる。
「失礼します」
斜め三十度くらいのお辞儀をすませ、副社長が待つ執務机へさっさと近づく。嫌なことは早々に終わらせるに限る。
私のそんな心理状態など知らないこの男前は、嫌味なくらい眩しい笑顔を作って立ち上がった。
「よく来てくれたね」
「約束ですから」
そう。須藤さんから助けてもらったときに、彼からその対価として、ある“約束”を取り付けられたのだ。ちなみにこの約束も契約内のこととして処理される。
「まさかとは思うけど、久留くんから連絡は来たりしてないよね?」
「一切ありません、ご心配なく」
私は口の端を持ち上げてみせ、「何かできるような状況ではないでしょう」と、暗に彼の過保護ぶりを指摘した。
「それよりも、全部すませてしまいましょう」
私が話題を変えれば、副社長はあと一歩分の距離まで近寄ってきた。頭から爪先まで私の全身を眺めると、彼は目を細め、口を開く。
「それじゃ、全部脱いでもらおうか」