王子様だけど王子様じゃない
「よし、これにしよう」
ドレスと靴、バッグもアクセサリーもようやく決まり、私は久しぶりに心から笑顔になった。私が着飾ったところで……とか思う暇もなく、この身を満たすのは解放感だけだ。
「次はメイクとヘアセットだな、行こう」
天国から地獄に落ちた。そういやそんな題名のクラシックがあったなぁ。
運動会では絶対に流れてたっけ、と現実逃避をかましながら典孝さんに手を引かれるままついていく。がっつりおしゃれしても、子供が背伸びしたようなふざけた見た目になるだけなのに。
そうなったら落胆されて、やっぱりいいやって家に帰してもらえるかな。それならいいけど。時間かけた分を返せって言われたらどうしよう。
視線は徐々に下がって、クリーム色の床しか見えなくなった。目にも妙なドレスの裾が目に入っても、なんだかひどく滑稽に感じる。
「ここだよ、スタイリストさんたちに全てお任せすればいいからね」
柔らかな声と共にドアを開け、私の背へ自然に手を当てる。エスコート慣れしてる人の動作だ。
「えっ!」