王子様だけど王子様じゃない

 私の目の前には、もう二度と会うことはないだろうと思っていた人がいた。


「邑田さん、お久しぶりです」


 須藤さんが勝気な笑みをみせる。典孝さんを仰ぎ見れば、彼は私を椅子へと案内しながら説明してくれた。


「須藤さんは、メイクもできるヘアスタイリストでね。パーティーのことを相談したら、自分に任せてほしいと立候補してくれたんだ」

「双方とも絶対にご満足いただけますから、安心なさってください」


 その顔には自信と自負しか見当たらない。羨ましいな、と思うと同時に、この人ならきっと大丈夫だと信頼させてくれる雰囲気があった。

 胸が高鳴って、鏡の中にいるいつもの自分がきらめいて見える。シンデレラが魔法をかけてもらう瞬間は、こんな気持ちだったのかもしれない。


「髪型やメイクは全てお任せでよろしいですか?」

「ああ、須藤さんに全部お任せするよ」

「かしこまりました」


 鏡越しに会話する二人に、あれこれ悩まずに信頼しようと私は姿勢を正した。
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