王子様だけど王子様じゃない

 私は深々と頭を下げる。この魔法使いに対するお礼としてはちっとも足りなかったけど、今の私にできるのはこのくらいだけだ。


「ご満足いただけて、何よりです──パーティー、楽しんできて」


 プロフェッショナルの顔をしていた須藤さんが、ふと纏う空気を和ませて彼女個人の顔になる。柔らかな声で背中を押されて、私は笑顔で頷いた。


「さて、そろそろ時間だ」


 腕時計を確認した典孝さんに向き直ると、私は深呼吸をして戦に赴く武士のような心持ちになる。誰かのパートナーとして行動するなんて初めての経験だけど、精一杯やるしかない。


「今日はよろしくお願いします」


 廊下に出ながら意気込めば、典孝さんは腰に手を回してきた。エスコート……もとい、パーティーはもう始まっているということね、心してかからなければ。


「……もうちょっとリラックスしてみようか?」


 典孝さんは眉を八の字にして笑った。手には力がこもり、身体が思う以上に密着した。
< 46 / 71 >

この作品をシェア

pagetop