王子様だけど王子様じゃない

 パーティー会場となっている会館の駐車場に、高級車は静かに乗り込んだ。

 道すがら聞かされた説明によれば、この会館全体を貸し切って池部社長──典孝さんのお父様の誕生祝いを行うそうな。しがない一般庶民にとっては雲の上の話だ。


「そうは言ってもほぼ身内だけの会だから」

「そこで会館全部を貸し切るのが理解できないんですよ」

「安全確保のためだよ。他のホールから関係者以外に入られても困るだろ? 貸し切れば警備は外だけですむからね」


 一理ある。他のホールからそれっぽい人が紛れ込んできたら、見分けをつけられる人は少ないだろうし。受付で一々あれこれ確認するのは手間がかかる。


「セレブって大変なんですね……」

「まさか! うちは慎ましいほうだよ」


 肩をすくめる典孝さんに、「どの口が言ってるんです?」と力無く突っ込んだ。「この口が」と屁理屈を返されてしまったけど。

 車は完全に止まって、運転手さんがドアを開けてくれる。外の空気が一気に入り込み、微かな湿気が足下に漂った。
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