王子様だけど王子様じゃない
試練の始点
一日だけの貴重なお休みを、サブスクの動画とスナック菓子で潰した次の日。
私たち秘書課は、今まで海外勤務だった池部典孝副社長をお迎えするために朝からてんてこ舞いだった。
「大まかな流れは、新入社員への副社長のスピーチが終わったら懇談会の会場へ移動ね」
「そこで社長に乾杯の音頭をとってもらって、それから一時間くらい自由にしてもらう……大丈夫、覚えました」
私は後輩秘書の君嶋さんと予定の最終チェックをしていた。今日は入社式、という名の新入社員との顔合わせ会が開かれるのだが、開会の挨拶を副社長に請け負ってもらうことになっているのだ。
私たち二人は副社長の担当を任されており、やれスピーチの原稿だ、やれ会場までの案内だ、そうした細々としたサポートの打ち合わせをしていた。
「じゃあ、そろそろ一階で待ちましょう」
「はい、今日はよろしくお願いします」
君嶋さんの緊張しきった表情が初々しい。彼女は秘書としてではなく、まだ他の秘書たちのアシスタントとして後方支援に回っている。だがこの業務を終えれば、新しい役員の秘書としてひとり立ちをするのだ。完璧にやり遂げなくてはならない。
私も彼女が失敗しないよう、協力を惜しまないつもりだ。