王子様だけど王子様じゃない

「その相手は悪い人じゃないんだけど、ご両親が強烈でね。手を替え品を替え結婚を申し込んできてたんだ」

「はぁ」

「でも、もう大丈夫だから。その人とは本当に何にもなかったから」


 彼の母親は「余計な真似を……」と目頭を軽く揉んでいる。私も同意見だ。これでは逆に疑われてしまっても文句は言えない。

 しかしそれ以上に、私はしばらく会えていない従姉妹のことを思い出していた。漫画とかだったら、白百合でも背負っていそうな儚げで清廉な美人。大和撫子という表現は、きっと彼女にこそ相応しい。

 平山柚月。同い年の従姉妹。

 控えめでお淑やかだった彼女は、才能にも恵まれていた。勉強もお稽古事も、周囲が期待する以上の結果を出して驚かせていた。会社を経営するおじさんやおばさんにとって自慢の娘だった。
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