王子様だけど王子様じゃない

「その方がね、婚約者の方と一緒にいらしてるの」

「婚約者の方と?」

「そう。予定では貴方にだけ話して、紗都美さんと鉢合わせしないようにしてほしかったの」

「……急に参加したいって言い出したクチか」

「再三断ってるからね。完全に諦めてもらうためにも──」


 二人の会話で我に返った。不自然に途切れた会話を疑問に思う暇もなく、私は寛子夫人が凝視している会場の奥へと顔を向けた。


「さっちゃん……?」

「柚月ちゃん……」


 耳を打つ涼やかな声に、私は全身が硬直するのを感じた。

 けれど硬直したのは、それだけが理由じゃない。


「は? 紗都美?」

「良輔……?」


 美しい従姉妹の隣りに、元カレが唖然とした表情で突っ立っていたからだ。


「根本様、平山様、おいでいただき誠にありがとうございます」


 寛子夫人が丁寧に礼を尽くしているのを無視して、良輔が一歩前に出た。


「そういうことかよ」
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