王子様だけど王子様じゃない
「え?」
「副社長のほうが金も権力もあるしな」
「何を言って」
言葉の意味がわからない。遠縁のお金持ちの養子になったとたん、「俺はお前みたいな庶民とは違うんだ」と言い出して、手当たり次第に浮気を繰り返したのは彼なのに。
疲弊した私が別れを切り出せば、「あーあ、お前、玉の輿逃したな」と悪辣に嘲笑していた。だのに、最近まで「頭は冷えたか?」だの「しょうがないから迎えに行ってやる」だの、まるで私が復縁したがっているようなメールを送りつけてきた人とは思えない発言だった。
嫌な思い出が瞬時に思い返されて動けなくなる。何かを察したらしい典孝さんが前に出て、視界の端には柚月ちゃんが良輔の腕を引くのが映った。
「根本様、彼女は私の恋人です。無礼な発言は止めていただきたい」
「副社長、騙されたらダメですよ。そこの女、家事もまともにできないくせに、狡賢さだけはありますから」
良輔は鼻で笑うと、私を指差して糾弾するように声を張り上げた。
「悪いことは言いません。今のうちに別れておかないと好き放題して財産を食い潰しますよ」
「良輔さん、いい加減にして!」