王子様だけど王子様じゃない
凛とした声がエントランスホールに響く。
柚月ちゃんの声だった。
「池部社長のお祝いに来たのに、どうして台無しにするような真似を──」
「こいつがいるだけで台無しになるに決まってるだろ!」
良輔の恫喝に柚月ちゃんが首をすくめる。見ていられなくて、足を踏み出し口を開いた瞬間。
「お言葉ですが!」
今度は朗々とした声が響き渡った。
「私は紗都美さんをそのような女性だとは思っておりません」
私は典孝さんを仰ぎ見た。真っ直ぐな目で、たたえる眼光は鋭い。良輔はその姿を見たとたんに青くなって微動だにしない。わかる。顔が良い人の怒り顔って迫力があるものね。
「彼女は賢明で美しい女性です。彼女より綺麗な人を、私は見たことがない」
私の腰を抱き寄せて、身体を密着させた。言葉を理解すると同時に、全身が心臓のようになっていく。どうかこの熱が伝わりませんようにと祈りながら視線を前に戻す。
「私は彼女と結婚します」