王子様だけど王子様じゃない

結審と決心


 え?


「いや、契約──」


 契約と違う。お互いが了承したのは恋人役までだ。

 そう言いかけて、良輔が怒りで顔を真っ赤にしたのに気づいた。


「そいつっ、そいつは! 俺の“お下がり”なんですよ! それでもいいんですか!?」

「彼女はモノじゃなくて人だ。根本家ではそんなことも教えてくれないんですか?」


 典孝さんが冷徹に言い切ったかと思えば、今度は私たちの左後ろ辺りから拍手の音が聞こえてきた。よく見渡せば人だかりができていた。何事かとこちらをうかがったり、ひそひそと会話する人たちの中心になっていると認識して、目眩に襲われる。


「いやいや、息子がここまで情熱的とは」


 目眩に襲われている場合じゃない。

 ゆっくりと拍手しながら私たちに近づいてきたのは、社長なのだから。

 傍らには寛子夫人もいるから、きっとこの口論が始まる前に呼びに行ったんだろう。


「邑田さん、今日は来てくれてありがとう」
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