王子様だけど王子様じゃない

 きょろきょろと辺りを見回せば、柚月ちゃんと良輔の背中が目に入った。こちらをまだ睨みつける良輔を、柚月ちゃんが引きずっている。

 長い黒髪を下ろし、右肩に流した髪型。マーメイドラインのロングドレス。

 ため息が出るほど美しいのに、その顔は悲痛に歪み、なんだか顔色も悪いような気もする。


「……そろそろ会場に移動しよう」


 典孝さんに囁かれて、私は自分が置かれた状況を思い出し、引きずるように足を動かした。


「言っておくけど、本心だから」


 私にだけ聞こえるように落とされた声。

 これは……終わった後で長時間の話し合いだ。私の直感がそう告げていた。
< 58 / 71 >

この作品をシェア

pagetop