王子様だけど王子様じゃない
「お待たせ」
「ありがとうございます」
私は湯気を立てるマグカップを受け取った。若草色のそれからは、深い薫りが漂ってきて少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。
「典孝さん、今日のことなんですけど」
「ああ、俺は本気だよ」
何気なく言い切った。その目には迷いはない。
「困ります。契約では恋人までだったはずです」
私がなるべく冷静に反対しようとすれば、典孝さんはマグに一口つけて、私の目をしっかりと見据えた。
「順番が逆になってしまったのは申し訳ない。だが、あれが売り言葉に買い言葉で出たものではないと理解してほしい」
「それは……わかります、私を守ろうとしてくださったんですよね」
「そうだ。けどそれだけじゃない」
彼はテーブルの上で指を組んだ。
「好きになった。本気で」
「……別に、責任を取らなくてもいいんですよ。生娘じゃあるまいし」
「そうじゃなくてね」
典孝さんは後ろ頭をかきながら、「どうすれば伝わるかな……」と唸った。私からすれば、彼に本気の好意を持たれるような行動を取った覚えはないので困惑している。
それを正直に伝えれば、形の良い顎に手を当てて「最初から話すよ」と姿勢を正した。