王子様だけど王子様じゃない
「好感を持ったのは、久留くんの件だ。疑惑が出た時点で俺に丸投げしても良かったのに、自分から囮に立候補した」
「そっちのほうが確実だと思ったからです」
「なかなかできることじゃない。危険だったろうに」
「典孝さんが助けてくれました」
最悪、殴られてもよかった。そうすれば閑職に回されるのは決定的になるだろうから。
その考えをそのまま伝えると、彼はぎょっとした顔で、「自分をもっと大事にしてくれ」と額に手を当てた。
「……紗都美さんがそうなった原因は、あれか。あの根本のやつか」
「彼は私の……元カレです」
「婚約者とも知り合い?」
「彼女は私の従姉妹なんです」
私は洗いざらい話すことにした。従姉妹との関係。元カレからの仕打ち。結婚式の招待や嫌がらせのメール。それが最近になってぱったり止んだことも。
合間にコーヒーを飲みながら話したのでだいぶ長くなってしまったが、典孝さんはさえぎることなく聞いてくれた。口元に手を当てながら聞いていたので、私と同じように状況を整理していたのかもしれない。
「柚月ちゃんとの結婚が決まったから連絡が来なくなったんでしょうね」
「それは……どうだろう」
私は首を傾げた。典孝さんは別の答えにたどり着いたらしい。