王子様だけど王子様じゃない
「ああいうタイプは、むしろ自慢してくるんじゃないか? 写真でも送りつけてくるとか」
「そうですね……プライドの高い人だし、そっちのが自然かも」
私は持ってきていた鞄からスマートフォンを取り出す。確認すると、良輔からのメールが大量に届いていた。
「俺に見られるかも、とか一切考えてないんだな」
「そのほうがやりやすいです」
二人で一緒にメールを開けていく。全部似たような内容で、「お前は金のために身を売った。そんな愛のない結婚が長続きするわけない。俺が幸せになるのを指を咥えて見ておけ。どうしてもって言うなら愛人にしてやらなくもない」が要約だ。
「愛のない、か……」
「愛がないのはあっちでしょうに」
タップして新着メールが届いていないか調べてみたが、「クソブスバカ女」と書かれた小学生以下のメールを最後に途絶えていた。どうしてここまで変わってしまったんだろう。お金持ちの養子になるまでは常識も良識もあった人なんだけど。
「俺は……愛のある結婚だけが全てではないと思う」
「そうですね」
「結婚してから愛が芽生えることもある」
典孝さんはいつになく真剣な表情で私と目を合わせた。瞳が灯りを受けて輝き、唇は真一文字に結ばれている。改めて見ると、本当に端正な顔立ちだ。