王子様だけど王子様じゃない

「紗都美さんに愛されるよう、努力する。だから、俺と結婚してくれないか」


 きっかり三秒間、沈黙が訪れた。呼吸さえ忘れそうな、永遠にも思える時間を終わらせるために立ち上がる。


「典孝さん、コーヒーお代わりください」

「え、あ、ああ」


 虚をつかれたその人は目をぱちくりさせると、若草色のマグを受け取ってキッチンへ行こうと背を向けた。

 その背に、私は耳を押しつける。

 腕も前に回して、がっちりホールドしてやった。

 固まって何も言えない彼に、私は自分の正直な気持ちを打ち明けることにした。


「私ね、自分だけ幸せになるつもりはないんですよ」

「それは……」

「柚月ちゃんを助けたいんです」

「もちろん、協力する」

「その後ならいいですよ」


 腕に力をこめる。何度も私を守ってくれた、大きくてあったかい背中。ひっついていると、陽だまりの中でうとうとしているような気分になる。

 けど心臓の音がすごい。バクバクドコドコとお祭り騒ぎになっていて、典孝さんの体調が心配になってきた。


「その」

「はい」

「胸が当たるので、勘弁してくれませんか……」


 私は腕の力を緩めた。
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