王子様だけど王子様じゃない

 気持ち良さに耐えるため、話題を変えて反応を見る。典孝さんは律儀にも耳から口を離して微笑んだ。


「優しいご両親だ」

「柚月ちゃんにずっと同情していたので、快く引き受けてくれました」

「今度改めて挨拶に行こう」

「柚月ちゃんがいるときにお願いします」


 会場から抜け出して、私たちは実家へと逃げ込んだ。そこでやっと白無垢を脱いで、普段着に着替えた私に柚月ちゃんが飛びついてきた。


「さっちゃん、ありがとう!……本当にありがとう……!」


 このときにわかったのだが、あの招待メールは親が勝手に送ったらしい。そうしゃくりあげる柚月ちゃんを見て、美人は泣き顔も美しいな、と場違いな感想を抱いた。両親は目元をハンカチで覆って、うんうんと頷いている。

 典孝さんだけが容赦なく柚月ちゃんをひっぺがした。


「これからについて、少し話し合ったほうがいいでしょう」


 そう言って柚月ちゃんを両親に預けて、私を自分のマンションに連れ帰った。
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