王子様だけど王子様じゃない
混乱の極みに達しても、時間は止まってくれたりしない。
だから冷静に控え室へとお通しして、君嶋さんに今後の流れを説明してもらった。私は彼女のアシスタントとして資料を渡したり、お茶を出したりして挨拶以外の会話はなかった。
「……こちらからの説明は以上になります。何か、ご不明な点などはございませんか?」
君嶋さんがちらりと視線を投げかけてきたので、私は目だけで頷いてみせた。大丈夫、あなたの説明に不備はない。
副社長は厳しい目で資料をざっとめくり、私たちを交互に見やる。隣りで身を硬くする空気が伝わってきて、私は別の意味で息を詰めた。
「この後の懇談会は、誰でも自由に話せる?」
「はい、役員も、全員」
君嶋がやや上擦った声で答える。副社長は一瞬だけ考える素振りを見せて、すぐに彼女を安心させるように微笑んだ。