王子様だけど王子様じゃない

「彼女には、ぜひ俺たちの結婚式に来てもらおう」

「気が早いですねぇ」


 私が大笑いすると、典孝さんは不機嫌そうに脇腹へと指を滑らせた。くすぐったさと快感に身悶えする。


「不安なんだ」

「不安?」


 私が背中をそっと撫でれば、典孝さんは額を私の胸につける。全て解決して、会社の方針も願ったようにできたのに、何が不安なんだろう。


「またトラブルが起きて、紗都美さんが巻き込まれてしまうんじゃないかって」


 典孝さんは続けて、「危険な目には合わせたくないんだ」と私と目を合わせてきた。仔犬のように潤んだ瞳に動けなくなる。


「私の王子様は心配性ですね」


 喉で笑えば今度は腹を立てたようで、声が思わず上がってしまうところを重点的に責められる。慌てて唇を噛みしめても遅い。すぐに媚びるような声が漏れて、恥ずかしくて首を横に振った。


「俺は、王子様に、なった、覚えは、ないっ」
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