王子様だけど王子様じゃない

「わかった、ありがとう」


 ……これは、世の女性たちが放っておかないやつだ。

 どうしてあの夜、私に声をかけてきたのだろうと思考が飛びそうになって、慌てて手元の資料に意識を集中させた。


「では副社長、そろそろお時間ですので、ホールの裏まで移動をお願いします」


 君嶋さんがテキパキと手短に説明するのを見て、私もう別にいなくても平気なんじゃないかとタブレットの評価表を開く。それに書き込む振りをしながら、周囲をそっと観察した。

 元々、彼女が主体になって行動する手はずだったのが幸いし、周囲から不審がられてはいないようだった。心の中で胸を撫で下ろし、二人と一緒にホールの裏まで移動する。

 入社式がつつがなく始まり、副社長が司会の挨拶と共に壇上まで足を進めた。

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