王子様だけど王子様じゃない

「はじめまして、ただいまご紹介に預かりました、池部典孝です」


 女性陣が音もなく色めき立つのが肌でわかった。声を出したり目配せしたりしているわけでもないのに、わかってしまうのは女の勘……なのかもしれない。


「皆さん、この度はおめでとうございます。あなた方の力が、このコンクラーウェ社を盛り上げてくれるものと、役員一同、及び現社員一同は期待しております」


 無難な挨拶を一通り済ませると、副社長は軽く咳払いをする。


「それは、非常事態であっても変わりません。むしろ、今後我が社は感染症や災害など、非常事態に強い会社になるよう、方針を変えていこうとしています」


 非常事態に強い会社になる──それは、昨年度の役員会議で決まった方針だった。
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