モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
私も誰かに慰めて欲しかっただけで…
2度と会うことのない人。
「…ありがとう」
「ん?なんだ?」
「なんでもない。ねぇ、シャワー借りていい?」
「一緒に入るか?」
「…ふっふふふ。遠慮しておく」
体を起こしベットを降り、男を一瞥することもなく浴室へ向かった。
浴室から出ると、男は私の肩をポンと叩いて笑ってから、浴室へ向かった。
その行動にどんな意味があったのかは、わからない。
私は、男が出てくる前に服を着て、ドアへ向かった。
ちょうど、シャワーが止んだ音が聞こえたが、振り返ることなく部屋を出た私の足取りは、意外に軽かった。
あの日から、今までと、さほど変わらない日常。だが、確実に我が家は衰退して行っている。
現に、家に届く督促状。
税金を払うお金も見てみぬふりをしだす義母。
山積みになっていく請求書。
少し残しておいた父の遺産で、税金は支払いはしたが、彼女らが浪費した請求書は、私が払っていく必要もないと思う。
だが、家が差し押さえにでもなれば、父に顔向けできない。
叔父に相談があると言われ、社長室まで来たが、彼の表情から良くない話なのだと察して深いため息をついた。