モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「頑張っているんだけどね…やはり、人員不足は変わらないんだ。このままだと、もう、縮小しないといけないと思う」
「…そうよね。縮小して会社が残るなら、仕方ないわ」
「…そこで相談なんだけど、実は、うちを買取というか、合併したいというところがあるんだ」
「えっ?どこが?」
「東雲ホールディングスだよ」
驚いて言葉が出なかったが、東雲といえば、大きなグループで、金融業と運輸業で沢山の傘下企業を持つ大手だ。多くの番組のスポンサーでよく見る名前でもある。うちもそこそこ大きな企業だが、足元にも及ばない。
「驚いたよね。僕も驚いたよ。だけど、会社が無くなる訳じゃない。合併というにはおこがましいから、系列に入れてもらう形になるけど、会社は残るし、抱えている負債も無くなる。いい話だと思うんだ。優香はどう思う?」
「…社長は、叔父さんだよ。会社が残るなら、私は賛成」
叔父は、ホッとした表情の後、申し訳なさそうに話を続けていく。
「賛成してくれてよかったよ。それでなんだけど…うちには、子供がいないだろう」
「うん」
叔父夫婦には、子供ができず、私は叔母に実の子供のように可愛がってもらっている。