モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

羽鳥家は、3代前から運輸業で大きくなり、父の代では、名の知れた企業になっていた。長距離の運送業に、引越し業、に加えて、近年では、配送業にまで手を広げていた。

だが、運転手不足もあり、業務が労働基準を超えて、等々、大きな事故が起きてしまった。

長距離トラックの運転手が居眠り運転し、数台の車を巻き込んでしまったのだ。死亡者は出なかったのは幸いだったが、賠償に、謝罪にまわり、労働局からの調査等で、父も会社も疲弊していく。そして、突然の心筋梗塞で亡くなったのは、昨年だった。

会社は、父の弟である叔父さんが後をついで、頑張ってくれてはいるが、一度失った信用を取り戻すのは容易ではなく、苦労している。

それなのにだ、うちの義母と義姉は、多額の父の生命保険と、相続した遺産で豪遊三昧でいる。

父の会社が傾き出して叔父が苦労しているというのに、見向きもせずにいる姿は、家族と言っても赤の他人なのだと痛感していた。

私に振り分けられた遺産は、少しばかりの貯蓄を残して会社の為にと会社に贈与し、私は、少しでも力になればと思い、事務員として勤めている。そのお給料の中から、長年、うちで働いてくれているお手伝いの京子さんの給料に今は当てている。
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