モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「あっ…そうですね。優香いいかい?」
「大丈夫。ひとりで帰れるわ」
「でも、お着物だし、大丈夫?」
「僕が家までお送りします」
「…お願いします」
叔父と叔母が心配するので、とりあえずば合わせておいた。
そして2人は、東雲の年配の方と別の場所へ移動する為に出て行った。
残された私達に、気まずい空気が流れていると感じるのは私だけだろうか?
お見合いなんて初めてなことだし、このような風貌の人と話す会話の内容にも、思い当たらない。
「優香さんは、羽鳥家のお嬢さんなのに、働いていると先ほど聞きましたが、亡くなったお父様の遺産もあるでしょに、どうして働かれてるのですか?」
最初から、聞きにくいことを聞いてくる辺り、世間には疎い人なのだろうと思った。
「うちには、父の遺産は、もうほとんど残っていません。あるのは、住んでいる家と、僅かな貯蓄だけです。私が働かなければ、お手伝いさんにも給料が支払えません」
「そこまで逼迫(ひっぱく)した状況下だったのか」
ボソリとした呟きは、口調が変わった気がし、目の前の男を見つめた。
「あっ、いえ。ご苦労されてるんですね」
「金銭的に余裕がありませんけど、今までが贅沢なだけで、一般家庭と比べれば、まだ、お手伝いさんもいますし、裕福な方だと」