モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「ですが、ご苦労されているのは優香さんだけで、ご家族はお父様の遺産で生活されているのでしょう⁈」
「今までは、それで生活できてました。ですが、羽鳥運輸も、うちも、東雲さんと縁を結べなければ、潰れてしまうんです」
「それで、お義姉さんの代わりにあなたが来られたのですか?」
「はい」
座布団から後ろにずり、頭をついてお願いする。
「私を貴方の妻にしてください。金銭的な要求は致しません。ただ、あの家を守りたいのです。所有者が東雲家の者になれば、義母は手を出せません。誠心誠意、あなたの良き妻になるよう努めます。叔父の会社と家を助けてください。お願いします」
「…私は、あなたでよかったと先ほど伝えましたよ。私の妻はあなたしかいません」
私の側まで来た鷹也さんは、体を起こすように促して、顔をあげる私の頬を指の背で撫でていく。
その手は、まるであの時の男のような仕草で、ドキリとする。
「ですが、こんな私でも、あなたはいいのですか?」
「…はい。義母と義姉を見ていると、外見など重要ではないと思います。確かに素敵な外見なら嬉しいですが、内面が大事だと思います」
「あはは、正直でいいですよ。あなたには、驚かされるばかりだ」